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大阪高等裁判所 昭和34年(ネ)89号 判決 1963年1月23日

判   決

控訴人

橋詰すて子

右輔佐人

橋詰勉

被控訴人

滋賀県教育委員会教育長

横山和夫

右訴訟代理人弁護士

福田公威

右指定代理人事務職員

白川正夫

右当事者間の頭書請求控訴事件につき、当裁判所は昭和三七年一〇月二五日終結した口頭弁論に基き、左のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人が控訴人に対し昭和三二年三月三一日附失職通知書を交付してなした免職処分はこれを取消す。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

控訴人はその請求の原因として

一控訴人は昭和二六年九月一六日滋賀県犬上郡東甲良西甲良村学校組合立甲良中学校助教諭として採用されたが、昭和二七年四月一日同県坂田郡米原町立入江小学校助教諭を命ぜられ同校に転勤し奉職していたところ、昭和三二年四月一日被控訴人は控訴人に対し「控訴人はその有する小学校助教諭免許状が昭和三二年三月一日限り失効したので教育職員免許法第三条第一項の規定により同日を以て失職したから通知する」旨の昭和三二年三月三一日附失職通知書を交付して控訴人の職を免ずる処分をした。

被控訴人は控訴人を含む二六名の助教諭に対し、昭和三二年四月一日に不意に昭和三二年三月三一日附失職通知したものなるところ、右は本来「特に優秀な者」を除き助教諭の全的整理の趣旨のものなることが明かである。

二被控訴人の控訴人に対する右免職処分は次のとおりの理由より違法である。

(一)  控訴人は教員である(教育公務員特例法第二条第二項)から、地方公務員法によらないでその進退を律せらるべきでない(地方教育行政組織及び運営に関する法律第三一条第三五条)。

然るに、被控訴人の「控訴人はその有する小学校助教諭免許状が失効したので教育職員免許法第三条第一項の規定により昭和三二年三月三一日を以て失職した」となした行為(以下被控訴人の行為と称する)は同法に無関係になされたものであるから違法である。

(二)  仮りに教員の身分は教育職員免許法(以下単に免許法という。)第一条に規定する法の目的に拘らず同法第三条第一項の規定によりこれを律し得るとしても、被控訴人の行為は次のとおり同規定の不当なる適用であるから違法である。

1  助教諭は免許法所定の免許状を有することを身分取得の要件とする教員ではないから、その有する助教諭免許状が三年の有効期間の満了で効力を失つたからとてその身分をも当然に失わしめられるものと解すべきものではない。

2  換言すれば、「教育職員はその持つている免許状が効力を失つたときはその身分も当然失われるものと解すべきであつてこの事は免許法第三条第二二条等に照うし疑を容ない」とある教育職員の中には助教諭を含まず、また免許状の中には助教諭免許状(臨時免許状)を含まず、端的に云えば右の両条は助教諭には関係がないということである。

3  被控訴人は「教員の任命には任命を受ける者が免許状を有することを要件とする免許制度(即免許法第三条第一項の規定)の趣旨からみて、控訴人がその有する小学校助教諭免許状の有効期間の満了による失効と共に失職するのは当然のことである」旨主張するけれども、控訴人は右に引用の規定は助教諭を除く教員にしか適用がないことを主張するものである。

4  昭和二九年一二月七日附被控訴人の各地方教育委員会等宛通知に次のとおりの記載がある。

「新法によれば、臨時免許状を有しないで勤務した場合は、上級免許状授与の検定の際その期間は勤務年数に通算されず、又その期間に取取した単位も認められないから、新採用者又は未出願者は、県教育委員会学校教育課に申し出て新法により申請の手続をとること」

5  右記載と免許法第五条第三項及同法施行規則第七一条の規定とに照らし、助教諭と臨時免許状との関係は次のとおりである。

イ 一般に教員には免許法所定の免許状を有する者を採用する(同法第三条第一項及第二二条参照)も、助教諭にはこれを有しない者を必要があつて採用する。臨時免許状はかく採用した助教諭にその申請を待つて授与する同法所定の免許状である。

ロ 助教諭に採用された者または助教諭であつてその臨時免許状の失効した者が、臨時免許状採与の申請をしないでいたならば、臨時免許状を有しないで勤務することとなるが、助教諭のこの姿は法の肯定するところである。

ハ 助教諭でなくて臨時免許状を有する者は不存在である。これに反し、助教諭であつて免許状所定の免許状即臨時免許状を有しない場合は多分に存在する。

6  以上は助教諭の任命には任命を受ける者が臨時免許状を有することを要件とするものでないことを如実に示すものであつて、これは免許法第三条第一項の規定はその違反に対する同法第二二条の罰則と共に、助教諭たる教員にはその適用がないということに外ならないから、被控訴人の行為は明らかに同規定の不当なる適用と云わなければならない。

(三)  仮りに免許法第三条第一項の規定は助教諭にも適用があるとしても、被控訴人の行為は論理上次のとおり違法な処分である。

1  免許法第三条第一項は「教育職員はこの法律により授与する各相当の免許状を有する者でなければならない」ことを規定している。

2  控訴人に授与された昭和二八年四月一日附臨時免許状の有効期間は一年であつたが、昭和二九年四月一日附臨時免許状のそれはその記載に拘らず三年というから、問題は控訴人の昭和三二年四月一日からの引続いての在職に必要な同日附臨時免許状を被控訴人が授与するか否かにある。

3  右については被控訴人もまた臨時免許状の有効期間が満了しても引続き再び臨時免許状が授与された場合は、その身分は引続き、現実に失職という事実は発生しない旨を述べており、異論はない。

4  他面被控訴人は次のとおり述べている。

イ 臨時免許状は臨時免許検定に合格した者に授与する。

ロ 臨時免許指定の基準の設定及これが合否の判定は、被控訴人の自由裁量である。

5  右により一般に教育職員免許法及び同法関係法令施行細則第一一条の規定により現に勤務する学校を経由して臨時免許指定の出願があつた場合、出願助教諭を昭和三二年四月一日からも引続いてその学校の「助教諭としておく」には、臨時免許検定に合格した者と見てこれに昭和三二年四月一日附臨時免許状を授与する外はない。

6  昭和二九年四月一日或はそれ以前の日臨時免許状授与のための検定の合格に加うるに在職実歴三年或はそれ以上の出願助教諭を臨時免許指定合格者と見ることは可能であるのに、これに昭和三二年四月一日附臨時免許状を授与しないことがあるとしたならば、それは何等かの理由、この場合は該当者は特に優秀な者でないという理由で、昭和三二年四月一日からはその学校の助教諭としておかないからである。

7  されば昭和二六年九月一六日以来教員として在職してきた控訴人が昭和三二年四月一日からは在職しないのは、従つて、同日附臨時免許状を授与されないのは、被控訴人が昭和三二年三月三一日附免職処分をしたからである。即、その控訴人に対する昭和三二年三月三一日附失職通知は名は通知であつても実は処分であり、旧免許状の失効に名をかりた違法な免職処分なのである。

8  被控訴人は昭和三二年六月二五日附不合格通知を控訴人その他に対し送達したが、その無意味(強いて云えば昭和三二年三月三一日附失職通知又は免職処分の別名)なることは明らかである。

(四)  仮りに論理的には欠くるところはないとしても、被控訴人の行為は次のとおり基本的人権を保障した憲法の規定に違反した違法な処分である。

1  地方公務員法がその第二二条で職員の条件付採用の期間は六ケ月を原則とし、長くとも一年を越えてはならないことを規定している趣旨と、控訴人は条件付採用を経て正式任用された職員であつて、五年七ケ月間勤続してきた者なる事実とに照らすと、それは控訴人の勤労の権利(憲法第二七条参照)を侵害するものである。

2  免許法がその第六条第二項別表第三で助教諭に対し在職六年の経験を積むことにより大学又はこれに相当する機関において四五の法定単位を修得することと相待つて、普通免許状を授与して教諭えの進路を用意している趣旨と、控訴人は夙に所要単位を揃えて身分回復の日に備へている事実とに照らすと、それは控訴人の職業選択の自由(憲法第二二条参照)を侵害するものである。

被控訴人が控訴人は免許法第三条第一項の規定により失職したとなしたことは、身分法であつて広く助教諭を含む教員にも適用のある地方公務員法を排除して資格法に過ぎない免許法、それも助教諭を除く教員にしか少くとも文言通りには適用のない規定を以て助教諭の身分を律したものであるから、論理の法則に乗らず憲法の規定にも違反する始末となつているのは当然のことである。

と述べ、

(立証省略)

被控訴代理人は答弁として

控訴人主張事実中、控訴人が昭和二六年九月一六日滋賀県犬上郡東甲良西甲良村学校組合立甲良中学校助教諭として採用されたが、昭和二七年四月一日同県坂田郡米原町立入江小学校助教諭を命ぜられ同校に転勤し奉職したこと、被控訴人が昭和三二年四月一日控訴人に対し控訴人主張の如き昭和三二年三月三一日附失職通知書を交付したことは認めるが、その余の主張事実はこれを否認する。被控訴人は控訴人に対し右失職通知書を交付して控訴人の職を免する処分をしたものではない。

凡そ、控訴人の如き教育職員は免許法所定の免許状を取得していることを資格として任用されているものであつて、その身分の継続も右資格の保有を前提としており、従つて右資格を喪失したときはその身分も当然失うものであつて、そのことは、教育職員としての身分の特殊性から、また免許法第三条第一項に「教育職員は各相当の免許状を有するものでなければならない」と規定されている趣旨に照らしても明らかである。しかして、控訴人は昭和二九年四月一日に取得した臨時免許状は、昭和三二年三月三一日限り有効期間の満了により失効するので、再度右免許状の授与を受けるため右免許法所定の手続に則り教育職員検定を受けたが、不合格となつたので、再度免許状を取得できなかつたため、小学校助教諭の資格を失い教育職員としての身分を当然喪失するに至つたのである。そして右検定については右有効期間満了前である昭和三二年三月二八日にその合格不合格を決定するとともに、不合格となつた控訴人に対しては同月三一日附失職通知書を控訴人に交付する際に不合格となつた旨を口頭で通知するとともに、その後更に同年六月二五日附書面により控訴人に通知したのであるが、右不合格決定の効力は右決定のなされたときに生じているというべきである。しかして右の如き控訴人の身分の喪失は本人の意思に拘らず、右の如き資格の喪失に伴い必然的に生ずるものであるから、そこに任命権者による行為の介入する余地はなく、従つて免職という処分が必要でないのは勿論、免職処分それ自体が存在しないというべきである。被控訴人に交付した失職通知書は、たんに控訴人の身分喪失の事実を明らかにして離職の措置をとるためになしたものにすぎないのであつて、免職処分の意思表示としてなされたものではない従つて、控訴人に対し免職処分がなされたことを前提とする控訴人の主張は全部理由がない。

と述べ、

(立証省略)

理由

控訴人が昭和二六年九月一六日滋賀県犬上郡東甲良西甲良村学校組合立甲良中学校助教諭として採用されたが、昭和二七年四月一日同県坂田郡米原町立入江小学校に助教諭を命ぜられて転勤し同校に奉職したこと並びに被控訴人は昭和三二年四月一日控訴人に対し控訴人主張の如き同年三月三一日附失職通知書を交付したことは当事者間に争のないところである。

しかして(証拠―省略)によると、被控訴人は昭和三二年四月一日控訴人を含む一四名の小学校助教諭並びに同講師に対し右の如き内容の同年三月三一日附失職通知書を交付したものである事実を肯認することができる。

控訴人は、被控訴人は控訴人に対し右失職通知書の交付により控訴人の小学校助教諭の職を免する処分をなしたものであつて、右処分は違法であると主張し、これに対し、被控訴代理人は、控訴人はその取得した小学校助教諭免許状(臨時免許状)の有効期間の満了により、小学校助教諭の資格を失い、教育職員としての身分を当然喪失したもので、控訴人に対し右失職通知書を交付したのは右身分喪失の事実を通知したもので、免職処分としてなされたものでなく、免職処分なるものは存在しない旨抗争するので、判断する。

免許法第三条第一項によると、「教育職員は各相当の免許状を有するものでなければならない」旨規定し、いわゆる教育職員の免許状主義を宣言し、同法第二二条に「第三条の規定に違反して相当の免許状を有しないのに拘らずこれを教育職員に任命し若しくは雇用し又は教育職員となつた者は一万円以下の罰金に処する旨規定しているのであつて、右規定の趣旨は教育職員につき、その職務の特殊性からして、同法所定の免許状を有することが教育職員たる身分を取得するための資格要件であつて、免許状を有しないものを教育職員に任用又は雇用しても、右任用又は雇用は当然無効であるとともに、その身分の継続も、右資格の保有を前提とするものであつて、免許状が失効し右資格を失えばその身分も当然に失われるものと解するのが相当である。

ところで、(証拠―省略)を綜合すると、控訴人は昭和二〇年三月二七日滋賀県立彦根高等女学校を卒業したものであつて旧学校教育法施行規則第九六条に定める助教諭仮免許状を有する者とみなされるものとして、旧教育職員免許法施行法第八条の規定により免許法第三条第一項の規定にかかわらず相当免許状の授与なくして昭和二六年九月一六日前記甲良中学校助教諭に任用されたこと、次いで控訴人は昭和二七年四月一日前記入江小学校助教諭に任用され、翌昭和二八年四月一日旧教育職員免許法施行法第二条第三四号の規定により有効期間一年間の小学校助教諭の免許状(臨時免許状)を、更に、昭和二九年四月一日同規定により同じく有効期間一年間の小学校助教諭免許状(臨時免許状)を授与されたが、昭和二九年六月三日法律第一五八号により改正免許法第九条第二項により臨時免許状の有効期間はその授与されたときから三年間と改正され、控訴人の昭和二九年四月一日附の臨時免許状の有効期間は授与の日から三年間に延長され、昭和三二年三月三一日まで有効となつたこと、滋賀県教育委員会は初め同県下の教員不足のため臨時免許状を有する助教諭を任用せざるを得ない状態であつたが、普通免許状を有する者が漸次増加し、昭和三二年度においては普通免許状を有する者を以て教職員を補充するに足る状態となつたのであるが、従前から教職にある臨時免許状を有する教員であつてその免許状の有効期間が満了するものの内成績優秀な者はなるべく教職に残すこととし、再度臨時免許状の授与を受けさせるため教育職員検定を行う方針を立ててこれを実施したこと、控訴人はその臨時免許状の有効期間満了前両び小学校助教諭免許状の授与を出願し、昭和三二年二月一六日並びに同年三月三日教育職員検定を受けたが、同年三月二八日不合格と決定し、臨時免許状を得ることができず、前記昭和三二年四月一日被控訴人から控訴人に対し失職通知書が交付された際口頭で不合格告知がなされたが、さらにその後被控訴人から控訴人に対し昭和三二年六月二五日附書面を以て右不合格の通知がなされたこと、従つて、控訴人が取得した臨時免許状は昭和三二年三月三一日をもつて三年の有効期間が満了した事実が認められる。

してみると、控訴人は昭和三二年三月三一日の経過とともに小学校助教諭の資格の喪失にともない小学校助教諭たる身分を失つたものであつて、被控訴人から控訴人に対し交付された前記失職通知書はたんに失職の事実を通知したものにすぎず、これにより、控訴人の職を免する処分がなされたものではないのであつて、その間に被控訴人の控訴人に対する免職処分の介在の余地はないものといわなければならない。

一控訴人は、控訴人は教員であるから地方公務員法によらないでその進退を律せられるべきでない旨主張し、控訴人が教育公務員特例法第二条第二項に定める教員であつて、同法第三条により地方公務員としての身分を有し、地方教育行政の組織及び運営に関す法律第三一条第三五条によりその身分取扱に関する事項は同法又び他の法律の定めがある場合を除き地方公務員法の定めるところによることとなつていることは明らかであるけれども、控訴人はその取得した臨時免許状の失効により小学校の助教諭の資格を喪失し、それに伴い小学校助教諭たる身分を失つたものであつて、被控訴人は控訴人に対する前記失職通知書の交付によりその職を免する処分をしたものではないから、控訴人の右主張は採用することができない。

二次に、控訴人は、免許法第三条第一項第二二条に規定する教育職員の中には助教諭は含まれず、また免許状の中には臨時免許状は含まれない旨主張するけれども、同法第二条第一項によれば「この法律で教育職員とは学校教育法第一条に定める小学校中学校高等学校、盲学校ろう学校養護学校及び幼稚園の教諭助教諭養護教諭養護助教諭及び講師をいう」と規定し、同法第四条には、「免許状は普通免許状及び臨時免許状とする」とし臨時免許状は左のとおりとするとして小学校助教諭免許状等が挙げられており、そのほか同法第五条第六条第九条等の規定の趣旨に照し、同法第三条第一項第二二条が小学校助教諭の臨時免許状につき適用があることは明らかであり、控訴人の右主張は独自の見解であつて到底採用することができない。

三更に、控訴人は、昭和二六年九月一六日以来教員として在職してきた控訴人が昭和三二年四月一日からは在職しないのは、従つて、同日附臨時免許状を授与されないのは、被控訴人が昭和三二年三月三一日附免職処分をしたからであつて、被控訴人の前記失職通知は、旧免許状の失効に名をかりた違法な免職処分である旨主張し、(証拠―省略)を綜合すると、控訴人は昭和二六年九月一六日から五年六ケ月余りの間前記中学校並びに小学校の助教諭として真面目に勤務してきたものであつて、その間文部大臣の認定する講習及び通信教育を受け、教育職員検定のため定められている一一単位を修得した事実が認められるのであるが、免許状第五条によれば、臨時免許状は普通免許状を有する者を採用することができない場合に限り缺かく事由に該当しない者で教育職員検定に合格した者に授与するものであるところ、控訴人は滋賀県教育委員会が前記の如き経緯の下に実施した教育職員検定を受けたが、不合格となり、更に、臨時免許状を得ることができず、その取得した臨時免許状の失効により、その資格を喪失し、小学校助教諭の身分を失つたこと前認定のとおりであるから、控訴人の右主張は理由がない。

四なお控訴人は、被控訴人の右行為を免職処分と解することなく単なる事実の通知と解するが如きことは、控訴人の勤労の権利(憲法第二七条)、並びに職業選択の自由(同法第二二条)を侵害するものである旨主張するので判断する。

憲法第二七条第一項に国民は勤労の権利を有するというのは、国家は勤労を欲する者には職を与えるべく、それができないときは失業保険その他適当な失業対策を講ずる義務があるとするものであつて、国家は国民一般に対して概括的にそのような責務を負担し、これを国政上の任務としたのであるけれども、個々の国民に対して具体的現実的にかような義務を有するものでなく、右規定により、直接に個々の国民は国家に対して具体的現実的にそのような権利を有するものではない。また、憲法第二二条は、国民の権利として職業選択の自由を保障しているのであるが、その自由も無制限に亨有させているのではなく、公共の福祉の要請がある限りそれは制限されることを認めているのであつて、前記のとおり免許法は、教育の重要性に鑑み、教育職員につきその職務の特殊性からして同法所定の免許状を有することが教育職員たる身分を取得するための資格要件とし、いわゆる教育職員の免許状主義をとつているのであつて、右は公共の福祉を維持するための必要な制限であるといわなければならないから、何等憲法第二二条に違反するものではない。従つて、前記の如き認定は何等右各憲法の規定に違反するものではなく控訴人の右主張は採用することができない。

してみると被控訴人が控訴人に対し失職通知書を交付して免職処分をなしたものとし右処分の取消を求める控訴人の本訴請求は失当であつて、これを棄却した原判決は正当であるから、本件控訴を棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

大阪高等裁判所第七民事部

裁判長裁判官 小野田 常太郎

裁判官 亀 井 左 取

裁判官 下 出 義 明

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